いろいろなデザイナーvol.28　〜マルセル・ブロイヤー〜

今回は、モダニズムの先駆者としても知られるハンガリーのデザイナー「マルセル・ブロイヤー（１９０２年〜１９８１年）」をご紹介いたします。

マルセル・ブロイヤーは１９０２年にハンガリーのバラニャ県の県都であるペーチで生まれました。
１９２０年には、ヴォルター・グロピウスが校長を務めていたバウハウスへ入学をします。この時のバウハウスは、ドイツのヴァイマルで設立されていました。バウハウスでは家具工房で木工技術とデザイン感覚を養っていきます。

バウハウスの実験住宅では「婦人の部屋」などを担当し、才能を発揮していきます。そしてマイスターの称号を取得し１９２４年に卒業します。卒業後は一旦バウハウスから去りましたが、バウハウスがデッサウに移転後、同校の教官として復帰します。そこでは芸術とテクノロジーの融合を説き、やがて木工工房を任されるまでになります。その工房では、木材だけにこだわらず様々な素材を使い作品を作り上げていきました。その中の一つが彼の代表作でもあるスチールパイプを使った椅子「ワシリーチェア」です。このパイプ椅子は自転車のハンドルに着想を得て、作成されたとも言われています。

バウハウスを１９２８年に辞職すると、ベルリンに自身の事務所を設立します。ここではアパートメントを中心に、インテリアデザインの仕事を多数手がけていきます。しかし、１９３１年に突然事務所を閉鎖してしまいます。その後は、ヨーロッパ中を旅行して周り、知識を深めるとともに、個人で住宅建築などの仕事を受けていきます。

１９３０年代中頃なると、ドイツでナチス党が台頭していきます。ユダヤ人であるブロイヤーは、迫害を恐れロンドンに拠点を移します。ロンドンでは長く暮らすことはなく、程なくしてアメリカに移り、ハーバード大学のデザイン大学院で建築学を教えるようになります。アメリカでは大学で教鞭をとる以外に事務所も設立し活躍していきます。

１９４５年には教職を辞した後、事務所をニューヨークに移し創作活動に専念していきます。そして１９５３年に彼の転換点となった依頼が舞い込んできます。それは、パリのユネスコ本部の設計依頼でした。この仕事で初めてコンクリートを使用した彼は、曲線美や彫刻的な表現を特徴とするブルータリズムの先駆者として知られるようになりました。この曲線美は多くの建築家たちに「彼はコンクリートで柔らかさを表現した」と評価されています。この時に日本人である芦原義信も事務所に参加しています。その後は、ガガーリン邸やホイットニー美術館などを手がけ活躍の場を広げていきました。

そして、１９６９年にニューヨークにあるグランドセントラル駅の上に、「グランド・セントラル・タワー」と名付けた５５階建ての高層ビル建設を提案します。しかし、評論家たちに「悪趣味な巨塔」と言われ批判を受けてしまい、ブロイヤーの評価は下がってしまいます。この出来事をきっかけに全米各地で歴史的建造物の価値を認める運動が起こり、都市景観の保護を定めた法律が制定されることになります。その後も活動を続けていたブロイヤーですが、１９７６年に建築から身を引きます。そして、１９８１年、ニューヨークでこの世を去ります。享年７９歳。

多くのデザインを手がけたマルセル・ブロイヤー。彼の作ったプライウッドの椅子は、イームズが作った「LCW」のヒントにもなりましたし、スチールパイプで作られたチェアはとても画期的なものでした。彼がいなければ、モダニズムの世界観はもっと遅れていたかもしれません。

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• 2017-10-15